From Southern

サザンカンパニーからの月イチコラムです。
書いているのはサザンカンパニーのスタッフ、写真やイラストは、サザンカンパニーと関わりのある方に依頼しています。

第8回「想像力とコミュニケーション」


 「WWWWW」(石塚元太良/青幻舎)という写真集を買いました。帯の“地球迷子。”の文句と、レンズをまっすぐみつめるぼやけた人物写真にどこか懐かしさを覚えて手にしました。中面は見開きで、左頁にぼやけたバストアップ写真、右頁にしっかりピントの合った様々な白壁、そして小さな小さな文字で国名と都市名のキャプション。スリランカやケニア各地、パリ、フェアバンクス、アディスアババ、トウキョウ、ラサ・・・世界各地の人々が、蜃気楼に浮かび上がるように、ぼやけて写っています。白壁と合わせて見ていると、まるでイスラエルやかつてのベルリンのように今やどこにも壁があり、その向こうの人は皆、服装と佇まいと面影だけを抽出した、実体のないもののように思えてきました。しかしずっと見ていると、壁の向こうにいる懐かしい人を思い起こすかのような錯覚にとらわれ、顔の見えない不安感を通り越して親しみのようなものが湧いてきました。

 そういえばこの感覚は何かに似ている・・・と考えてみたところ、7月に見たマルレーネ・デュマスの展覧会でした。デュマスは写真や映像を題材に繊細で生命感あふれる人物像を描く画家ですが、彼女の絵を見ると、生命の危うさや旧知の懐かしさや包容感などが一緒になって押し寄せてきます。おそらく写真や映像からその人らしさの核のようなものを取り出して肉付けするからかもしれませんが、見る側が入りこむ余地があるのです。

 ぼやけた人物写真もデュマスの人物画も、想像力をかき立てる不思議な力があります。そして、想像力を働かせて見れば、それはとても身近で個人的な体験になります。コミュニケーションというのは、“匿名性”を“個人的な関係”に結びつけていくことなのかもしれません。普遍的な抽象性を持ちつつそんな力を持っているアーティストたちに感服しながら、広告等にも当てはまる秘訣かも、と密かに思い、見る人にイマジネーションを引き起こすような仕事をしなければと自分に発破をかけたのでした。(編集/山本彩野)